週間ベストブックレビュー -2006年05月-

毎週一冊、ベストセラーの中から興味本位で選んで勝手に書評するページ

Op.ローズダスト
 福井晴敏 著
 初版:2006年3月 株式会社文芸春秋

福井晴敏の三年ぶりの最新作を一気に読了。 分厚い上下巻を食事も忘れて読み終わり、我に返っての素直な感想はと言えば、正直少し残念、と言ったところ。
彼の別の作品(「Twelve Y.O.」や「亡国のイージス」)と共通の世界観、現代日本の自衛隊が主要登場組織となっているのだが、本作では福井氏独特の設定が説明もなく頻出し、本作を初めて手に取った読者には何がなんだかわからないままにどんどんストーリーに流されていく。
物語のテンポは極めてスピーディーで小気味よく、銃器やメカアクション描写はさすがと思わせる部分が多いだけによけいに気になる。
また、ラストシーンは東京の埋め立て地お台場が舞台となるのだが、地理に詳しくない方は細かい建物名や字地名がばんばん出てくるあたりで迷子になってしまいそう。たまたま自分は台場の地理に詳しいためそれほど悩まずに済んだが、普通の人なら間違いなく地図が必要だと感じた。
また、主役級の登場人物がおなじみの組み合わせでそろそろワンパターンに陥っているのも残念。これだけの構成力、描写力があるのだからそろそろ新しい人物像を描き出してほしいもの。
ところで、この小説、フジテレビ、踊る大走査線製作スタッフあたりが将来映像化する事を前提に(あるいは期待して)書かれているような匂いがぷんぷんすると思うのは私だけだろうか。

(2006/05/07)


国家の品格
 藤原 正彦 著
 初版:2005年11月 株式会社新潮社 新潮新書

多少極端な主張はあるものの、僕は本書の内容にはおおむね頷くことができた。
特に、ロジック(論理)をことさら神聖視し、その他の物を軽く扱う欧米近代文明と、その考え方に犯された現代日本の社会が陥った泥沼から脱するには、情緒を重視した日本古来の「もののあはれ」の精神性だという考え方には目の前のもやが吹き払われるような気持ちになった。
拝金主義がまかり通り、残虐な少年犯罪が頻発する昨今の世の中を見ていると、作者の主張には確かに一面の正当性があると確かに感じる。
「論理では世界のすべてをカバーでlきない」という一節が特にココロにしみた。

ところで、欧米には論理に対抗する存在として、本書で主張されている「情緒性」ではなく「全能なる唯一神」の概念がある。
行き過ぎた非人道的な行為にストップをかけるのも、不遇の中で耐えるよすがになるのもどこかで「神」が自分を見ており、試されているという意識があるからだと僕は思う。
本書ではそのあたりには一切触れておらず、ちょっと日本型の情緒の効用や精神性を一方的に褒めすぎの傾向があるのがちょっと引っかかった。

(2005/1/9)


下流社会 新たな階層集団の出現
 三浦 展 著
 初版:2005年9月 株式会社光文社 光文社新書

かつて、一億総中流社会と言われた日本、本書では、長い不況をくぐり抜けた21世紀の日本の社会が、一部の富裕層と多くの下流層に分化しつつあり、分厚い「中流層」はもはや存在しなくなりつつあることを豊富な統計資料に基づいて検証する。
特に興味を引かれたのは、「自分らしい生き方」や「生き甲斐のある人生」を求める層は下流に多いと断じている点。また、非社交的な性格やがむしゃらさを嫌う生き方、ゆとりを求める層は下流化し、就職しにくく、年収は上がらず、結婚も出産も次第に難しくなりつつあるとの認識。
確かに、しゃにむに働かなくても最低限の生活がなんとかできてしまう世の中、それまでだったら淘汰されてしまったであろう無気力層が増えているのは確か。また、大衆車の代名詞であった「カローラ」が低迷し、超高級ブランド「レクサス」が人気を集めている点など、いくつかの点では作者の主張に沿って社会が変化しつつあるように思われる。
企業やメーカーのマーケティング担当者なら、漠然と感じていた消費者の変化を再度認識する助けになる本かもしれない。
ただ、これだけ個々人の目的意識が多様化している現代社会において、高所得=幸福と単純に判断したり、上下の評価軸の取り方がいささか2次元的で広がりに欠け、ステレオタイプで古くさいように感じるのは「下流層」のひがみだろうか。
また、散見される他者否定的な記述は気になる。

(2005/12/25)


トニー流 幸せを栽培する方法
 トニー・ラズロ 著
 初版:2005年12月 ソフトバンク クリエイティブ株式会社

国際結婚のバイブルとしてベストセラーになった「ダーリンは外国人」(メディアファクトリー)の主役(?)であり、独自の視点から奥さんを優しく見守る人格者、トニー・ラズロ氏の格言集とでも言うべきエッセー本。
若い女性を対象にしたと思われるわかりやすい語り口、決して押しつけをしない優しい立ち位置で、人生を穏やかに過ごすためのちょっとしたコツがとつとつと綴られる。取り立てて新鮮味のある主張はないけれど、ひげの奥の優しい眼で見つめられながら、語学オタク(?)らしく様々な国の格言やことわざをさりげなく引用しながら話をされると、いつの間にか「そうかー」と納得させられてしまうかも。
ただひとつ残念なのは、本文に使われている活字が非常に細く見にくい書体であること。
はじめは印刷が薄いのかと思ったほど。さらに縦書きの本文に対して横書きの注釈が入るなど、デザイン面で首をひねりたくなる処理が見られること。
せっかく内容がわかりやすい視点で書かれているのだから、もう少しユニバーサルデザインに気をつかって欲しかった。

(2005/12/20)



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